日本大学芸術学部 放送学科の講義 ~アニラジってなに?

2014年10月8日(水)

 

1 アニラジの始まりは? 

 
 

局アナや声優がパーソナリティーを担当するアニメ関連情報番組は「ワタル3」以前にも全国に幾つもあり、

キー局よりもむしろ地方局の方が数は多かった。

「ワタル3」は戦略的に長期的に継続展開し「アニラジ」の大きな流れを作った。

放送開始時は、文化放送には全く注目されずに始まった番組であった。

しかし、放送開始直後からのリスナーの投稿ハガキ(現在は投稿メール)の多さに文化放送がびっくり、

更に番組の高聴取率にびっくり、後に文化放送の深夜帯がアニラジ番組一色に染まる要因となる。

尚、当時の投稿ハガキの多くは女子中高生のキャラクターイラスト入りだった。

 

1958年(昭和33年)放送開始の「旺文社 百万人の英語」(34年間)や1952年(昭和27年)放送開始の

「旺文社 大学受験ラジオ講座」(43年間)の長寿番組が1992年(平成4年)と1995年(平成7年)

次々に終了する。

これに伴い、1995年(平成7年)春の番組改編で深夜枠はアニラジ番組編成に切り替り、アニラジブームが

一気に加速した。(アニラジ番組資料年表参照)

 

 

2  アニラジの意味って? 

 

アニメ+ラジオの合成語で単純な短縮形

それまではアニメラジオなど言い方は幾つかあったが固有の名称はなかった。

首都圏の文化放送・関西圏のラジオ大阪など全国のアニラジ番組急増に伴うアニラジのリスナーの要望・需要に

応える形で、アニラジ番組情報専門誌の「アニラジグランプリ」が創刊された。

「アニラジグランプリ」は月刊誌「声優グランプリ」のラジオ番組コーナーを独立させた雑誌である。

 

雑誌名 アニラジグランプリ

発行  主婦の友社(オプトコミュニケーションズ) 

発売  角川書店

創刊号 1995年(平成7年)10月発売(12月号) 

定価  880円

 

創刊当初は季刊誌であったが、発行部数の増加に伴い隔月誌となる。

2000年(平成12年)8月号(第26号 特別定価940円)で休刊。

 

「アニラジグランプリ」創刊以降、業界関係者及びリスナーにアニラジの名称が定着した。

アニラジ番組の増加に伴うスポンサーの多様化・番組内容の多様化で、アニメ・ゲーム・声優・コミック・

複合したものなどの番組を総称するようになった。

 

 

3「ワタル3」という事は、「ワタル1」「ワタル2」はどこにあるの?

 

ラジオ番組「魔神英雄伝ワタル3」の前の番組は、実はラジオ番組ではなくて

日本テレビ系12局ネットで放送されたTV番組なのです。

企画の狙い目はプラモデル(名称プラクション)玩具販売(@380円~480円)

アニメに登場するロボットの玩具は年間1000万個の売上(小売で40億円以上)

1988年度玩具ヒット商品ベスト3は、ミニ四駆・ゲームボーイ・プラクション。

尚当時、タカラの主力商品は女児の75%が通過すると言われたリカちゃん人形。

 

 

4 小学生男子をメインターゲットの「ワタル」シリーズに変化の兆しが!

 

変化の兆しは「ワタル」中盤(8月9月頃)、ワタルのライバル虎王の登場から。

虎王はワタルのライバルとして華々しく登場し、ワタルと激しく戦うがお互いを認め合い親友になる。

(少年ジャンプの編集方針、友情・努力・勝利と同じ)このワタルと虎王の友情を「誤解、曲解」して

楽しむ女の子を中心に「可愛い男の子の友情を愛でる」同人誌的感覚のファンが徐々に増えそして爆発した。

女性声優の少年キャラクターで、宝塚ファンとも重なるファン心理もありか!

 

当時、アニメ専門誌中最大部数を誇る学研の月刊「アニメディア」は、「ワタル」の読者ターゲットを

小学生男子から女子中高生へ徐々にシフトを変えた。

 

 

5 「ワタル2」関連キャラクター商品の売上アイテムに変化が?

 

プラクション(@380円~480円)→ CD(1000円~3000円)

「ワタル」半ば~徐々に「ワタル2」で加速

1988年度玩具ヒット商品ベスト3になったプラクションが「ワタル2」で伸び悩む中、ひとり音楽CDの

売上が急伸した。

 
 

CDの売上急伸は、ファン層がCDを買わない小学生男子からCD購買力のある女子中高生に変った事を

裏付けている。

尚、高橋由美子は1990年度(平成2年度)シングル盤のビクターヒット賞受賞、授賞式でビクター

専属アーティストを代表して挨拶した。

当時、シングル盤のビクターヒット賞の基準は発売後年間売上が5万枚以上。

従って、2年間以上のロングセラーで5万枚以上の売上では対象外となる。

因みに、当時のアルバムのビクターヒット賞の基準は年間売上が2万枚以上。

 

 

6 TVシリーズアニメの続編がなぜラジオ(連続ラジオドラマ)だったのか?

  レコード会社の音楽ディレクターがなぜ連続ラジオドラマを作ったのか?

 

「ワタル」「ワタル2」のメインスポンサーは玩具メーカーのタカラです。

TVアニメ番組30分の提供料総額の6~7割を負担するメインスポンサーの主要商品の玩具プラクションが

売り伸びず、タカラは「ワタル2」に続く新シリーズ「ワタル3」のTV番組の継続を断念した。

 

一方、CD売上急伸のビクターは、CD売上の利益では提供料を吸収出来ないので、TVアニメ番組の

メインスポンサーになる事が出来なかった。

又、当時レコード会社がTVアニメ番組の提供をする仕組や習慣がなかった。

そこで「ワタル2」放映中から、音楽(CD)を売るレコード会社がTV番組のメインスポンサーになる以外に

出来る事は何かないかと暗中模索する。

色々暗中模索する中で閃いたのが、子供時代毎日夕方夢中になって聴いていた血沸き肉躍る

連続ラジオドラマだった。

 

<そして次のような背景が連続ラジオドラマを実現する後押しをしてくれた>

 

「ワタル」「ワタル2」以前より、レコード業界アニメ制作部や出版業界事業部では

イメージアルバム(LP・カセット・CD)が流行っていた。

1983年(昭和58年)5月 「バース」イメージアルバムLP ビクター(音楽久石譲)

1983年11月「風の谷のナウシカ」イメージアルバム  鳥の人 徳間(音楽久石譲)

尚、日本のCD初発売は1982年(昭和57年)、ビクターのCD初発売は1984年(昭和59年)2月25日。

 

イメージアルバムとは、小説・コミック等を題材に音楽やドラマで構成される。

主要な商品購買層は中高大学生で、男子向けより女子向けアルバムが多かった。

女子向けのアルバムが多いのは、女子は音の想像力が豊かなのだと思った。

そして、出来ればTVアニメ化したいが、アニメ化する規模の売上が見込めない作品や、

諸事情(原作者など)でアニメ化に踏み切れない作品が沢山あった。

アニメ化(映像)はNGでもイメージアルバム(音声)はOKの原作者もいた!

これらの作品の中から、制作意欲が湧きかつCDが売れそうな作品が選ばれた。

そして選ばれた作品の中からラジオ、OVA、TV等に進化発展する作品も生れた。

又、一方では、女子中高生のコミックファンの間では、既存のキャラクターを利用して自由な

ストーリーでオリジナルを創っていく同人誌活動が盛んだった。

二次的著作物に対する考え方が柔軟な他の国にはない日本独特の漫画文化である。  

通常の海賊版対策とは異なり、必要以上に原作権を振り回して規制する事なく書籍出版社と

コミックファンとの共存共栄を計るものである。

 

年に数回あるコミックマーケット(略称コミケ)では、我々の想像を遥かに越えて質の高い同人誌が

流通していた。特に女子の同人誌界はプロ並みのテクニックと表現力のある「先生」が続々と出現して

大手出版社の草刈場となっていた。

又、女子学生の多くが何らかのイラストを描く事が出来る位に、絵を描く事の一般化が進んでいた。

尚、コミックマーケットの発祥は諸説あるが、初期の一例としては。

 1975年(昭和50年)12月1日虎の門日本消防会館会議 参加者700人位、

 主催者によれば9割は中高校生の少女まんがファンを中心とした女子。

 

つまり、想像力(イマジネーション)さえ持っていれば、例え絵がなくても、彼女達は

自分なりの世界で自由に遊ぶ事が出来るのである。

「ワタル」「ワタル2」TV放映で、既に人気が浸透しているキャラクターと

声優の声でストーリーを与えれば、ワタルファンの女子中高生達はそれぞれのラジメーション

「ワタル3」へ自由に想像を膨らませるに違いないと確信した。

 

 

7 連続ラジオドラマ+声優パーソナリティーの発想は?

 

「ワタル2」は、女子中高生を中心とする熱狂的なファンの興奮のうちに終了。

「ワタル2」は、TV放映終了後もキャラクター人気が衰えず一人歩きし始めた。

熱心なファン達の声は、アニメ特有の投書や署名活動などで、ワタルイベントで親しみ始めたビクターに

向って来た。

(魔神英雄伝ワタルイベント一覧参照)

そして、熱心なワタルファンの女子中高生の期待に応えるべく、「ワタル2」放映中より

暗中模索していた中で閃いた連続ラジオドラマ・ラジメーション「ワタル3」の実現に向けて

具体的な作業に入っていく事になる。

子供時代に聴いた連続ラジオドラマはドラマのみでトーク部分はなかった。

そして、トーク部分でリスナーのリクエストに応えるなど、リスナーと一緒に盛り上がる事で、

ドラマ部分をより楽しく効果的に聴く事が出来ると考えた。

今の言葉では、双方向性のあるリスナー参加型の番組作りと言えるのかも!

当時よりTVアニメの少年役は女性声優が担当する事が多いので、宝塚ファン心理も考慮しながら、

連続ラジオドラマ+主人公ワタル役田中真弓とライバル虎王役伊倉一寿の2人によるパーソナリティー

(これしかない)を考えた。

通常のラジオ番組提供料(電波料+制作費)は、TVアニメの1/30~1/40位。

ラジオドラマ番組の制作費は通常のトークラジオ番組の制作費よりかなり高い。

しかし、ドラマCDが売れる作品ならレコード会社でも番組提供が可能になる。

 

 

8「ワタル3」連続ラジオドラマの作り方の工夫やコツは?

 

(「ワタル3番組基本フォーマット」参照)

 

<基本的な考え方>

*女子中高生の目線で考える。 (羞恥心を捨てる)(高尚な路線を狙わない)

   ラジオドラマも色々あり、賞狙いが目的のNHKラジオドラマ作りは例外、

  高尚な路線を狙わずにエンタメ路線を狙う趣旨である。

*ドラマを聴き終った後に、次回の放送が待ち遠しいという古典的で王道的な連続ラジオドラマ作りを目指す。

 (昔のラジオドラマの多くは毎日放送した)

*ドラマ作りは笑いあり涙ありでリスナーを飽きさせない。(喜怒哀楽を作る)

*コミックや小説など原作ものではないTVオリジナル作品なので、「ワタル」「ワタル2」と同じ

 TVアニメ制作スタッフとキャストで制作。TV放映終了後、年数が経過していない場合は、これが大原則。

*絵のない音声のみのドラマなので、音楽や効果音を多用した。

*1991年(平成3年)10月放送時、ラジオ放送はまだモノラルだったので、ラジオ用モノラル音源マスターと

 CD用ステレオ音源マスターの2つ作成。思惑通り、「ワタル3」ドラマCDが売れた理由の一つにもなっている。

 尚、TV音声はモノラルだったが、ステレオ化により納品形態がステレオ音声マスターに変っている。

 記憶は曖昧だが「ワタル」はモノラル納品で、「ワタル2」はステレオ納品か?

 

<脚本>

劇場映画やTVドラマなど作品がヒットするかどうかは本(原作・脚本)次第、と言われる。

絵のない音声のみのラジオドラマは脚本が命である。

シリーズ構成と脚本家の起用については、作品の基本設定や世界観などを十分理解済の「ワタル」

「ワタル2」の監督である井内秀治に一任した。

狂言回し的な物語の進行役を設定、説明的に多用せずタイミング良くリスナーの想像力を後押しして、

次週が待ち遠しいと思わせる効果を狙った。

説明的にナレーションを多用するとスピード感がなくなり、想像力を膨らませ難くなる。

放送1話分でも4話分(CD1枚分)でも24話分(CD6枚分)でも、各々の中で起承転結のメリハリが

あるように、1話分の尺を固定せずトーク部分で30分番組フォーマットの「尺」を柔軟に調整する方法を取った。

尚、アニメ制作上TVシリーズアニメ30分番組フォーマットの尺は固定される。

                (「ワタル3番組基本フォーマット」参照)

以上の音声のみドラマ制作の工夫により、玩具縛りのある「絵のあるアニメ」と異なる玩具縛りのない

「絵のないアニメ」の音声のみのラジオドラマの魅力を十分に表現出来たのではないかと思う。

 

<音楽( 主題歌+背景音楽BGM )>

ラジオドラマ用にTVアニメと同じクオリティーで新たに制作(新録音)した。DVD販売利益を見込んで

番組が成立するTVアニメの方法論の先取りだった。

「絵のないアニメ」なので、「絵のあるアニメ」より背景音楽を多用した。                

音楽を重視の為、24話のドラマと音楽(主題歌+BGM)の制作費はほぼ同額。

「優れたアニメ作品(ヒットアニメ)は音楽も優れている」という実感がある。ビクターは

他のレコード会社の音楽制作費よりも多めの予算を組んでいた。

番組の提供スポンサー料とドラマ・音楽の制作費の総額は6700万円。

通常のラジオ番組の制作費としては破格であり、40年以上前からラジオドラマがほとんど制作放送

されなくなった理由がここにあると思う。

 

<効果音>

アニメやゲームやコミックの表現手法に慣れているリスナーなので、通常のアニメ的な効果音や

コミック的な効果音の使い方をした。

 

<声優>

俳優が映るTVと異なり音声のみのラジオやCDは、声質や表現が似ている場合、台詞が交差すると

聴いていて誰だか分り難くなる。

これはトーク番組で複数のパーソナリティーや複数のゲストでも同じである。

ワタルの声優は元々音声のみで聴いても声質的にも演技的にも識別感がある。

「ワタル3」新キャラは、ラジオドラマを強く意識してキャスティングした。

 

 

9 レコード会社としての特性や持味を生かす工夫は?

 

(「ワタル3番組基本フォーマット」参照)

TVアニメのフォーマットと手法を活用、OPテーマ・EDテーマを作った。

メロディーは感覚的・歌詞は論理的なので、主題歌はドラマを構成する重要な要素の一部となる。

メッセージしたい事をメロディーの中に抽象的に・歌詞の中に具体的に盛込む。メロディーや歌詞で

作品全体を流れるテーマを情感(情緒)的に後押しする。

1話18分前後のラジオドラマ4話分を編集し、冒頭OP・末尾EDを付けて

1枚60分強ドラマCD(CDシネマと命名、台本付、税込定価2800円6枚)発売。

放送エリア以外の地域に住んでいる人や、雑音の隙間から聴いているリスナーだけではなく、

音楽CDのように好きな時に反復して何度も聴きたいリスナーには魅力的な商品になった。

アニメファンは音楽を聴くようにドラマCDを反復して聴く嗜好がある。

 

ラジオCMは、ワタル(田中真弓)と虎王(伊倉一寿)の連続ドラマ仕立てのCMを作り、番組内の

CM枠で順番に流し大好評だった。(24年前)

今ではドラマ仕立てのTVCMは普通だが、ラジオCMながらもその走りかも!曖昧ですが、楽しいCM音源は

確か後日何かのオマケに活用した記憶が!?

 

当時、文化放送にはアニメのツボが分る人がいなかったので、番組収録に立ち会って確認していないと

トーク部分の収録内容が的外れになる事があった。

「ワタル3」放送後、ビクター関連のラジオ番組の制作会社が設立されたので、自主プロデュースで

トーク部分を収録、文化放送へは完パケ納品に切り替えた。

その結果、アニメのツボを心得た番組を放送する事が出来た。

ツボを押さえた番組作りをしないとリスナーが聴いて気持ち良く感じない。

ある時期より、文化放送はアニメのツボの分る外部ディレクターを起用、制作管理プロデュースに

徹するようになったと思う。

 

最近ではレコード業界の売上激減で、販促活動のレコードキャンペーンが殆どなくなったが、

ラジオ番組やアニメ誌やレコード店などとマルチ連動しながら、作品世界でスタッフ・声優・リスナーが

一つになって楽しく遊べる多くの販促イベント(カラオケ大会やミュージカルなど)を主催した。

(魔神英雄伝ワタルイベント一覧表参照)

 

 

10 連続ラジオドラマを文化放送枠でやったのは何か理由が?

 

文化放送は、「絵のないAMラジオ局」である。

ラジオ局なので音楽や報道に興味を持っている人は多いが、アニメやコミックやゲームに興味がある人は

いなかった。興味があったのは、レコード会社と音楽出版社の関係にあった文化放送系列の音楽出版社

「セントラル・ミュージック」(通称JCM)の人だった。

「ワタル2」主題歌デビューの高橋由美子の契約先がJCMである事も幸いした。

何事も状況を把握・理解している人と組むのが手っ取り早い成功への近道です。

音楽出版社ビジネスに繋がるアニメビジネスに興味があり、文化放送に影響力の強いJCMと組んで、

文化放送との仲介役をお願いするのが、番組成立の実現可能性が一番高くなると判断した。

荻野目洋子(OVAバリバリ伝説)、長山洋子(劇場映画ファイブスター物語)

デビュー前の加藤いづみ(OVAロードス島戦記)主題歌タイアップ実績暦あり。

あとは上記に記載した事を具体的にどうビジネスに結びつけるかであった。

 

 

11 絵のないアニメは成功するか!「ワタル3」ビジネスの勝算?

 

番組開始直後の1991年11月6日付日経エンタテインメントに記事掲載。

記事タイトルは《絵のないアニメが想像力を刺激。「ラジメーション」の新しさ》

尚、月刊誌となった日経エンタテインメントは1997年3月発売創刊号4月号。

 

取材時「この実験ビジネスが成功すれば、二番手、三番手のフォロワーが何社か登場する日も

近いかも知れない」とのコメントを取材記者より頂いている。

 

その結果は以下の通りとなった。

1995年4月、「ワタル3」の成功と43年間続いた「大学受験ラジオ講座」番組終了を切欠に、

文化放送は、深夜枠の編成方針をアニラジ編成に切り替えた。

これにより、深夜帯に多くの「アニラジ」番組が増殖、文化放送はアニラジの得意なAMラジオ局の

イメージが出来上がった。

これは現在まで引き継がれて、AM以外にもデジタルラジオやネットラジオまで幅広く展開が広がり、

文化放送経営上の重要な柱の一つとなっている。

(「アニラジ番組枠数の推移」参照)

 

 

12「ワタル3」CD商品売上実績(1994年12月末日現在)

 
 
 
 
 
 
 

1991年(平成3年)当時のレコード会社損益分岐点は、制作費の4倍の小売売上、3倍の卸売売上が目安。

例えば、総制作費5千万円の場合の損益分岐点は小売売上で2億円。

 

尚、注目するべき事は、「ワタル3」展開の結果「ワタル」「ワタル2」の旧譜CD商品の小売売上が

1億円強増加した事である。 

旧譜の売上には新たな制作費投資が0なので利益は大きい。

これにより更に「ワタル3」以降の新たな展開を実現する事に繋がった。

(「アニラジ番組資料年表」参照)

「ワタル」~「ワタル4」全商品の発売以来売上総数量            100万枚

〃        売上額(小売価格)         21億円

 

 

13「ワタル3」の功績や影響は?

 

<業界に対して>

ラジオ業界に「アニラジ」という新ジャンルが定着した。

声優パーソナリティーというスタイルを生み出した事こそ、アニラジの功績だったと思う。

2009年(平成21年)9月23日(水祝日)朝日新聞朝刊

「ラジオアングル」(ライター・山家誠一)

 

1995年春、43年間続いた「大学受験ラジオ講座」番組終了に伴い、アニラジ

番組編成に切り替わり、その後の文化放送の経営方針に大きな影響を与えた。

 

ラジオに馴染のないアニメ・ゲーム・コミックファンをラジオに回帰させた。

特にラジオ離れの多い10代~20代の若い女性リスナーが増加した。

 

声優・放送作家・制作スタッフの新たな職場が誕生、仕事の領域が広がった。

そしてアニメ・ゲーム・コミック・声優などの宣伝広報活動の場が広がった。

 

<ビクターに対して>

映像が主導権を握るアニメ業界で、受動的立場にあるレコード会社でも、

映像がなくてもアイデア次第で、やれば出来る自信がついた。

 

アニメ・ゲーム・コミック・声優などのコアファン向けのアーティストの

育成・活動・宣伝の場が生れた。

 

「ワタル3」以降の新たなアニラジやTVアニメ展開を実現する事に繋がった

1994年TVアニメ「覇王大系リューナイト」(サンライズ作品)TV提供初参加。

(アニラジ番組資料年表参照)

売上及び利益に大いに貢献した。

 

<ファンやリスナーに対して>

制作スタッフ・声優・ファンが一つになって作品世界を遊ぶ事が出来た。

「絵のないアニメ」番組「アニラジ」という新しい遊びの文化(遊び場)

を提供出来たという満足感と達成感があった。

 

 

14 総括 「ワタル3」から「ワタル作品全体」を振り返ってみて

 

ファンと夢や希望や価値観を共有出来る遊び心のある作品だった。

ファンと夢や希望や価値観を共有出来る実感(手ごたえ)がある作品だった。

送り手(スタッフ・声優)受け手(ファン)が一緒に楽しく遊べる作品だった。

DLのように次から次へと色々な「遊び場」を提供出来る参加型作品だった。

仕事をしている感覚がなくいつも遊んでいる感じで毎日が充実して楽しかった。

ソフトの仕事は作り手(送り手)が楽しまないと受け手には伝わらないを実感。

ラジオメディアは、特に補完機能に優れている。

ラジオメディアは、TVメディアや紙媒体、更に配信やツイッターなどネットと

親和性のあるメディアと連動して情報発信すると大きな相乗効果を発揮する。

「ワタル3」の時に感じた感触をパーソナリティー森田成一「星空サンライズ」内の

TIGER & BUNNYの情報コーナー「HERO RADIO」で強く感じた。

 

ラジオメディアは、アニメーションと親和性が高い。

私見ながら、具体的なアニメ業界の一例として挙げれば…

特に、ヒット作品のTVシリーズとTVシリーズの間やTVシリーズと劇場作品の間を、繋ぐ機能に

優れていると感じた。

アニメーションは、映像を制作するのに多くの時間と労力とコストがかかる。

その為に、ヒットしたとしても映像のクオリティーの高い作品ほどTVシリーズ作品を継続して

放映し続ける事が出来ない。

しかし、次回作までの時間の隙間を、キャラクターの声優がラジオドラマやイベントや

次回作などの情報を発信する事で、ファンへメッセージを継続して送り届ける事が可能になる。

映像がなくてもファンの心を作品から離れずに繋ぎ止めておく事が可能になる。

「ワタル3」の番組作りを通して学習し肌で感じた大きな収穫の一つである。

但し、自ら経験しないと言葉だけでは中々分り難い事でもあると思っている。

 

 

15「ワタル3」を通してディレクターとして再確認出来た幾つかは次の通り。

 

ビジネス(お金や数字)は大切だがクリエイティブな視点で考え実行する。

お金や数字を軽視すると失敗するが、お金や数字を最優先で考えると複雑な方向や歪んだ方向へ

走りがちになる。

品質が高く優れていると不思議にお金や数字は後から付いてくる事が多かった。

昨今の経済事情でも、「バブルの昔は昔なりに、厳しい今は今なりに、基本的な考え方や姿勢や視点は

変る事なく同じである」と信じている。

 

「もの作り」は単純明快シンプルな方が良い。

リスナーあってのラジオ番組、リスナーあっての公開録音。

 

自分が面白いと思ったものは相手も面白いと思う、と信じる事が大切。

自分が感動するものは相手も感動すると思う、と信じる事が大切。

自分が面白いと思わなければ相手は面白いと思わない、と信じる事が大切。

自分が面白くないと思った場合は妥協しない。

自分が面白いと思ったものが生れるまで待つ。

 

「もの作り」には、何事も〆切や期限がある。

しかし…

「もの作り」には、果実が熟して落ちるのを待つ忍耐が大切である。

優秀なクリエイターやアーティストほど〆切や期限ぎりぎりになる。

クリエイターやアーティストを精神的に追い込む事なくひたすら待つ。

優秀なクリエイターやアーティストは必ず期待に応えてくれると信じる。

もしも期待に応えられない結果になった時は、キャスティングした自分に全ての責任があると思う。

決してクリエイターやアーティストの責任にしてはならない。

そして、自分を中心に周りの人達を回して(動かして)行くという気概を持つ事が大切だと痛感した。

 

「ワタル」作品で、もし連続ラジオドラマ・ラジメーションを閃かなければ、

もし閃いても実行しなければ、ラジオ業界の中に「アニラジ」という新しい番組スタイルは

定着しなかったと思う。

「声優パーソナリティーというスタイルを生み出した事こそ、アニラジの功績だったと思う」

という評価は、売上や利益以上により充実した達成感を感じた。

そういう意味では、私はビジネスマンよりはディレクターであると思った。

 

 

16 音楽ディレクターがラジオ番組の制作に関って来た中で感じた事。

 

リスナーの心を掴めないのは、制作者サイドの視点しかない事が多い。

リスナーに感動を与えて心が豊かになるように考えながら制作する。

音楽制作でも同じであり全ての「もの作り」の基本であると再認識した。

 

最近では、「星空サンライズ」パーソナリティー森田成一の番組作りに対する

姿勢や考え方を見ていて大変感動した。

2013年10月度ビデオリサーチ日曜日23時~24時同時間帯聴取率第1位獲得。

この大きな要因は、TVアニメ「TIGAR&BUNNY」の作品人気だけではなく、

作品人気に依存する事もなく、森田成一の一途さ・ひたむきさ・個性や魅力が

ちゃんとリスナーに伝わったからだと思った。

「TIGAR&BUNNY」声優人気に依存する事なく、リスナーへのサービス精神旺盛で、

パーソナリティー森田成一個人の人気にしっかり引き寄せているのが凄いと思った。

ラジオ番組はパーソナリティーのキャスティングが一番大切であると痛感した。

 

 

17 これから社会に飛び出していく学生達へ

 

革新の大半は異なる領域同士の交流から生み出されます。同じ領域から、人々があっと驚く革新が

生まれることはまれなんです。

2008年(平成20年)7月12日朝日新聞朝刊コラム「ゴーン道場~交流が生むひらめき~」を読んだ時、

学生時代からのもやもやした記憶が蘇りました。

 

社会に出て間もない頃、作家の五木寛之が米国のブルースを例に、「混沌とする社会の中で、

異なる音楽と音楽が混じり合って新しい音楽が誕生した」云々の本を読んで以来、

「新しい文化は異なる文化と文化の混血から生まれる」と強く感じ続けて来た。

最近は、「大きな革新は異なる革新と革新の混血から生まれる」と感じている。

そんな想いもあり、意識して努力して、自分とは異なる価値観や考え方や文化の人達と積極的に

交流して来た。

 

人との出会いから全てが始まる!人との出会いを大切に!して欲しい。

何の仕事でも大切だと思うが、経験上特にソフトの仕事にはより大切だと思う。

 

自分とは異なる価値観や考え方や文化を排除しない。

異なる価値観や考え方はアイデアの泉の源・宝物である。

自分と価値観や考え方や文化の異なる人達と交流する事をお薦めしたい。

新しい発想や工夫はそんな交流の中からある日突然偶然生まれると感じている。

 

 

18 音楽ディレクターとしての信条

  

主張しながら協調し協調しながら競争する。

レコード会社ビクター28年間の音楽ディレクターを経験しての信条です。

主張だけでも協調だけでも競争だけでも「もの作り」は上手く回らない。

周りの人達が上手く動いてくれない、空回りしてしまう、という事を経験し実感しています。

 

音楽ディレクターは、具体的に何をやっているのかが分り難い職業です。

音楽ディレクターの仕事は、聴いた人の心を豊かにする「音楽を作る事」です。

しかし、音楽ディレクター自らは、何も創作しないし歌唱も演奏もしません。

作詞・作曲・編曲・歌唱・演奏するのは、作家や歌手やアーティスト達です。

音楽ディレクターは、より高品質の「もの作り」を目指してキャスティングした才能が結集するよう、

考え方や企画意図を周りの人達に伝えます。

 

そして主張・協調・競争する時に大切なのは、音楽ディレクターの熱意です。

価値観の判断し難い着地点が見え難い「もの作り」で、周りの人達が本気で

「もの作り」の意欲が湧く源は、音楽ディレクターの熱意です。

熱意は連鎖します。

最終的に「もの作り」の方向性や品質は音楽ディレクターの熱意で決ります。

 

熱意が伝わらないと品質の低い形だけの「もの作り」になってしまいます。

形だけの「もの作り」では、聴いた人の心を決して豊かにはしてくれません。

良いメロディーが出来ると、良いメロディーに影響されて良い歌詞が生れます。

良い楽曲が出来ると、良い楽曲に刺激され影響されて良いアレンジが生れます。

そして、歌う人自身が感動して聴いた人の心を豊かにしてくれる歌が生れます。

 

作詞・作曲・編曲・演奏・歌唱のどれ一つ品質が低くても、人の心を豊にする歌が生れません。

作詞~歌唱の加算が品質ではなく、作詞~歌唱の乗算が品質と考えているので、

品質の合計額数字が多くなるように、各々の係数をより高くする努力をします。

殆どの楽曲が曲先なので、「ヴォーカル曲」は作曲家に如何に良いメロディーを作曲して

提供して貰えるかが最初の関門で最初の勝負になります。

メロディーの品質が低いと、その後の品質を上げるのが大変困難になります。

従って、仕掛の大きい楽曲ほどコンペでより良いメロディーが選抜されます。

尚、通常は作曲を発注する時には、基本的に歌手は決まっています。

何故なら、歌手の音域や魅力のある音域帯や声質や個性に合せて発注します。

従って、メロディーを発注する以前に、歌手の係数がより大きい程(個性的で表現力のある歌手)

望ましいのは言うまでもありません。

 

歌詞や歌のないBGMやインストルメンタルなどの音楽も基本は同じです。

但し、作曲・編曲・演奏の比重が高くなる分「もの作り」は少し異なります。

私自身は、アニメーションなどの映像のBGMを制作する場合、主題歌などのヴォーカル曲と同じ位の

熱意と意欲と予算を持って制作して来ました。

何故ならば、ミュージカル作品でない限りOPテーマやEDテーマなど多くのヴォーカル曲は

映像の中に使用される事は少なく、映像と一緒に使用され映像作品の魅力を増幅出来るBGMという

魔法の力を信じているからです。

 

ぜひ熱意を持って自分の性格や能力に合ったやり方を見つけて頑張って欲しい。

本日のお話は以上です。

 

2014年12月31日加筆修正